BAND OF BROTHERSを観るべき理由

バンド・オブ・ブラザースという海外ドラマがあります。第二次世界大戦において米陸軍101空挺師団506パラシュート歩兵連隊第2大隊E中隊が辿った道筋を追うもので、僕が「戦争モノ」でいちばん好きな作品です。アメリカ本土での訓練からナチス敗北までを10話に渡り濃密に描いています。記事タイトルはわりと煽りっぽく書きましたが、僕がこのドラマを好きな理由を3つほど並べてみます。誰かがこれを機にバンド・オブ・ブラザースを観てくれれば嬉しい限り。

1. 無駄に感傷を煽らない

戦争というのは数えきれない人生が滅茶苦茶に振り回されるものです。それにまつわる世界を語ろうとすると、その物語は熱量が高く鋭利なものとなるのは仕方がありません。ですが、その意図が見えてしまうと一気にその作品を観ている自分というのを意識せざるを得なくなり、何だか作品に没入することが困難になることが多いです。それでも伝える言葉の重さで作品として成立することが多いし、そういった作品で心にしっかり刻んでおきたいものは幾らでもあります。しかしそれらは好きな作品というよりも、大切な作品になりがちです。

バンド・オブ・ブラザースは、少なくとも僕が観る限り、戦争を描く中では比較的ドライな作品です。映画ではなく10話のミニシリーズであるため、展開を焦らずにすむというのがひとつの要因ではないかと思います。兵隊の日々を淡々と描くことに集中するというのは多くの作品が何とかやろうとするものの、映画という形式の制限上できていないことではないでしょうか。その乾いている描写のおかげで、たとえば「戦争とは」「正義とは」などという大きな問いは保留した状態で、ただひたすらE中隊の行く末を固唾をのんで見守ることができます。気づいたら、画面に映される瞬間瞬間に没入しています。

2. しっかりと心を抉る

乾いた描写の結果、得られるのはこの兵隊たちが確かにそこに実在する人間だという感覚です。描かれるのは勇敢な英雄が活躍する武勇伝ではなく、かといって虐げられた弱者が勇気を振り絞り本物の英雄になるとかいう話でもなく、ただ必死に生きていく普通の人間達。静かだったりうるさかったり、熱かったり冷たかったり、戦争に適していたりそうでなかったり。そんなウィンターズ中尉が、ガルニア軍曹が、マラーキー二等兵が…彼らが過酷な戦争の日々にひたすら巻き込まれながらもがいている様子を見て、何も感じるなというのは無理な話です。

そして彼らがひたすらリアルだからこそ(ついでに言うと小道具や大道具類もすごい)、さまざまな悲劇が身を切るような切実さをもって迫ってきます。多少演出がかるものの、洗濯物を受け取るシーンは何度見ても鼻の奥がツーンとなりますし、収容所のシーンは導入の困惑が理解とともにゆっくりと静謐な恐怖へと変化していくのが見事です。それだけだと観ていないひとには何のこっちゃ分からないとは思いますが、戦闘自体のシーンはもちろんのこと、それ以外でもたくさんの出来事が身体感をもって迫ってくるので、作品を通して出会いと別れにあふれており、終わった後には心が空っぽになるような、もしくは一杯で溢れているような、良い疲労感があります。

3. ウィンターズが格好いい

普通の人間たちのドラマではあるのですが、部隊を導くウィンターズの格好良さは図抜けています。常に冷静な理性を持ち合わせながら、自らの行動を以て背中で部下を率いる様は理想的なリーダー像のひとつです。特段台詞は多くないんですが、1話を観終わる頃にはウィンターズ少尉への印象は信頼感の塊に。これは訓練を担当するソベル中尉がどの方面から見ても信頼ならない腹立つクソ野郎だからというのもあるんですが…。不確実な世界を生き抜く上で、信頼できる指導者がいるとどんなに心強いことか。自分もそうなれるよう精進します。モデルになった本人のインタビューも素晴らしい。

ちなみにウィンターズ以外だと馬鹿みたいに格好いいのは間違いなくスピアーズで、なんか一人だけ現実から抜け出して特撮か劇画の世界に紛れ込んでしまったのではないかという雰囲気です。そんなスピアーズのシーンは別の作品を観てるのかと思うくらいなものの、めっちゃテンション上がります。ドンパチな戦争映画の爽快感もそこそこ得られます。全般的に地味な作品ですが、スピアーズ少尉とガルニア軍曹のおかげで華というか勢いがあります。若干ウィンターズと被りますが、4話の主人公ランドルマンも安心感があって一緒にいて欲しい存在。かくありたいものです。

ざっくり言うと、ドライで地味でただの現実っぽいのだけど描くものが戦争なので心に訴えかけるものが否応なくついてくる、格好いい大人達の物語です。書いてて思いましたが、「この世界の片隅に」の兵隊版と思ってしまっても良いかも知れません。舞台や描き味、背景にまとっている歴史は全く違うものの。

バンド・オブ・ブラザース予告編は以下の通り。

感動巨編という言い方は少し違うなあと思いますが、使い古された「真実の物語」という言葉はこの作品だとしっくり来ます。この物語だけが真実だ!という種類の真実ではなく、ああきっとたくさんの真実があって、歴史の中で消えたり紡がれたりしているのだな、と想像できるタイプの真実です。Amazonプライムで観れます。

翼のために

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