兵は拙速を尊ぶ

たぶんデキるひとたちは試行回数を0から1にすることに集中していて、成功回数を0から1にすることにはこだわっていない。いや、成功回数は試行回数を上げることによってのみ上げられると知っているというか。

なのでデキるひとたちのアドバイスを翻訳するとだいたい「やれ」になります。それは「とにかく賭けろ」とは少し違っていて、内容的には「賭け金を減らせ」だったり「その賭け金じつは安いよ」だったりではありますが。

そんでだいたい言われる通りで、気づけば見栄を積み上げてたり、自分を高く見積もってたりします。けっきょく敵は己にあり、的な。適度に振りほどいてぺしぺし進めていきたいですね。

いざテーブルについてみると、見える景色がまったく違うことばかりです。

この世は愛と憎しみでできてる

すべての物質は土、水、火、風の要素が結合したり分離したりすることで構成されている。そこに働くのは愛と憎しみであり、千変万化のあらゆる事象は愛憎により説明できるものである。みたいなことを言っていた昔の人達がいます。世界の全ては土や水、火と風のラブストーリーなんだそうです。なんというロマン。

宇宙というものを表現するのに「美しい秩序」という言葉をあてた人達もいます。夜空一杯に混沌と広がっている星空を見上げて、それとは逆に調和の美しさを感じていたわけです。神や人とは無関係に常にそこにある秩序としてCosmosが存在してたし、これからもするだろうと言ってたとか。これもロマンがある。

昔の人達がどう自然を捉えていたかを読んだりすると、時代を飛び越えて同じ感覚を持つことに心を打たれることもありますが、我々との感覚があまりにも異なっていることに、言われもない感動を覚えることが多いです。人の心が天体と繋がっていると考えていたりとか、ホント格好いい。どれほど星が身近だったのか。

人間の感覚は科学技術とともに移りゆくものなので、我々が現在もつ感覚も数百年後、数千年後の人類にとっては信じられないものかも知れません。

現代に生きる我々の自然と向き合う姿勢が、いつか未来の人達に「つまらない見方をしていたんだな」だと言われないものであって欲しい。正しくはなくとも、せめて美しく。

それはつまり自然に対して、これまで自然に向き合ってきた人達に対して、どこまで真摯に敬意を持てるのかという話なのかなあなんて思ったりします。

林業の流れについて

林業をものっっそく狭義にビジネスとして考えると「丸太をつくる」仕事なわけですが、山からどうやって丸太が出てくるのかというのは、わりとイメージつきにくいです。

僕自身、去年ここに来るまで全然ナゾでした。木を伐るんだろうなくらいしか分からないので、いわゆる「木こり」な姿くらいしか想像できませんでした。映画も見たりしたけど。

実際の現場みると、意外と木を伐る部分は全体の中で占める割合は低かったりで、結構印象が変わりました。なので「丸太をつくる」仕事の流れをカンタンに説明します。

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こんな感じ。この中の「開設」というのは作業道をつくる作業なんですが、そもそも道をつくる必要がある、という時点で驚くひとが多いです。ひとつひとつ見ていきます。

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木の状態を確認したりするのはモチロンですが、作業道がいれられるかどうかも調べるのも大事です。他所ではデータだけで現地調査しなかったり、という場合もあるらしいです。

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データが揃ったら、道や間伐範囲の設計を行います。図面に落としながら困難そうなことが分かったり、もっと情報が必要になったり。調査と設計はいったりきたりが多いです。

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木を伐って、丸太の形に整えるのはチェーンソーだけでも可能ですが、市場へ運び出すことを考えると道が必要です。道も周りも傾斜だらけなので、水の処理がかなり大事&大変です。

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ここが「林業」という言葉でイメージする工程ですね。チェーンソーではなく、ハーベスターやフェラーバンチャという機械で行う場合もあります。プロの人はホント早いし正確。

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木は斜面に倒れるわけですが、それを道際まで持ってきて*1、丸太にしていきます。プロセッサーハーベスターという機械でやることが多いですが、だいぶ派手なので見て欲しい。

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ある程度は丸太にした時点でもまとめますが、山のあちこちに丸太がある状態になるので、それをトラックの入れる道の近くまで集めていきます。この工程も特殊な機械が必要。

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後はトラックに積み込んで最終土場へ運びます。村内でも、たまに丸太を積んでるトラックを見かけるはず。ちなみに積んだり降ろしたりも、グラップルという機械が必要です。

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適当に並べておいても買ってくれる人はいないので、品質や規格によって仕分ける必要があります。ここで正しく仕分けられるかどうかが、買う側との信頼関係の基礎になってきます。

ものすごーくザックリでしたが「丸太をつくる」仕事はこんな感じかなと思います。山によって作業方法や、工程そのものが違ったりします。ヘリで運び出すなら道とか不要ですしね。

意外と工程が多くてそれぞれ特殊ながら連携してるので、僕はイメージが「職人ワザが大事な個人仕事」から「全体最適が重要なシステム運用」に変わりました*2。いや職人芸もめっちゃあるんですけど。

ほかにも「林業」には新植や下刈り枝打ちなんかもありますし、山主さんとの契約や、将来の計画つくったりする仕事とか、道の補修やらいろいろありますが、とりあえず少しでも「丸太をつくる」部分のイメージが湧いたら幸いです。

いつもどおり、ツッコミやご質問は大歓迎です。どうぞ引き続き宜しくおねがいします。

資料はコチラ

*1:この工程を「集材」という人もいてややこしい

*2:当然、これも林業の型によります

いいやまつくろう

林業関係で「良い山」つくろう!みたいな話題はよく出てくるんですが、あまり「良い山」の内容について明確な答えが出てくることは少ないです。あの頃の山は良かった、とかは聞くんですけど。50年後こうなってると「良い山」だよね!というのはどうも曖昧でぼんやりしてます。

まあ山というのはデカイので、ひとくちにコレが良いよ!みたいな話ができないのは道理です。太くて真っ直ぐな木が毎年たくさん出せる山が「良い山」なんだ!みたいな話もあれば、歩いてて爽快な気分になる山が「良い山」なんだ!という話もあったり。見るべき切り口が多い。

森林総合監理士のテキストに載ってる、学術会議の「森林の多面的機能の種類」を見るとこんな感じです。おそらくこの辺を基準に評価すると「良い山」は何かしら良い点数がついたりしそうです。項目別の重み付けとか最低基準とか、いろいろ定まらない感じではありますが。

山に関する議題は金儲けの関係上あまりにも「物質生産」に偏りがちなので、定期的にこういう話題を意識しておきたいところ。きっと「良い山」を作る上では(具体的な方法論はまだまだ見えないものの)不可欠なはず。

ことあるごとに同じ話をしている

スギ130万本とヒノキ220万本

西粟倉に生えてるスギとヒノキの材積量とかいろいろまとめてみました。

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※0.3m3台以下 f:id:tabata-sunao:20180310192259p:plain

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思ってたよりスギ・ヒノキの差が多かったです。でも山の雰囲気思い出すとこんなもんかも。ヒノキはヘクタールあたり1200本くらいで放置されてる山が多い印象。

資料はこちらからどうぞ。

西粟倉のスギは1,282,372本

西粟倉村およそ58平方キロメートルの中に生えているスギの本数は、昨年時点で130万本弱でした。データ上は1,282,372本。以下に幾つかグラフを掲載します。

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順に樹高、径級、単木あたり材積

百年の森林構想では不良木をとる定性間伐を基本にしているので、このうち悪いものを中心に出材しています。明らかに、大径木まかせろ!って感じではないですね。歩留まりもあるし。

この森を満遍なく手入れするとなると、だいぶ原木生産的にはツラいです。細い木は安いので。最近は太ければ高いという訳でもありませんが、費用対効果もかなり違います。

道は結構あるので、時々テキトウに良いものを見繕い、選択的に伐るとかすれば多分そこそこ儲かります。その場合50年後に山がどうなってるかは、全くもって闇の中ですが。

もちろん2058年の世界がどうなってるかなんて想像もできないので、50年後を考えてもムダ的な話はあります。日本家屋が基本だった50年前の常識が今では全く通用しないように。

ただ個人的にひとつ指針にしたいのが、安定性です。一定規模以上の製造業において、不安定な原料供給というのは大敵です。それは現代も、50年前も変わりません…よね?

一品モノ勝負なら別ですが。まあこの分野もVUILDさんみたいな芽が出つつあるかもです。しかし、仮にそれが未来を席巻しても、安定性の価値は下がりこそすれ、敵にはならないハズ。

そんな訳で、さっき満遍なく手を入れるのはツラいと書きましたが、何かしら解決していきたい所存。補助金まみれだと間伐率もそっちに引っ張られますし。そのうち何か見つかるはず。

とにかく。そんな淡い仮説を立てて、少しずつ濃度を上げつつ、死んだ後の未来に思いを馳せる。広葉樹とか多様性あった方が"強い"森になるよね?とか妄想したり。山は幾らでも考えるべき側面があります。

こういうところが、自分の性格的にこの仕事あってるなーと感じるとこです。曖昧ですが。最近は山を経営することの醍醐味はこの辺にあるんじゃないか、とすら考えたりもしてます。曖昧ですが。

なお、1年未満で何を!というツッコミは諸手を挙げて歓迎致します。

そんで、こんなことを考えるにあたり、現状のデータは持ってないと多分何も出来ないので、それをやった西粟倉エラい。引越し当時は大して意識してませんでしたが、最近ひしと感じます。

そのうち情報は誰でも扱えるよう公開していきたい。です。

西粟倉もレーザーで森林の計測してます

今日はフィンランド・日本合同シンポジウム「レーザーセンシングによるICTスマート精密林業」を聞きにきています。フィンランドすごい!というのが基本。でも聞いてて思いましたが、西粟倉村はセンシング的な意味ではけっこう世界レベルで頑張ってる。というかアジア航測さんにしっかりお金を払ってる。

以下うちで見てる図面です。

https://i.imgur.com/HvpsD9O.jpg 航空写真。基本で使うやつ。

https://i.imgur.com/Zyufbmo.jpg 赤色立体。地形が分かるので路網設計にとても便利。

https://i.imgur.com/Y6Sbkib.png 林相。どこに何が生えてるか分かる。

https://i.imgur.com/Hya40jy.jpg 単木データ。スギヒノキについては樹高と胸高直径が出ます。

ただし、今日も北信州森林組合の堀澤さんが言ってましたがコレだけでは意味がなくて、林業サプライチェーンを作らないといけない訳で。森林を流通倉庫として考えられるように、全体としてのマネジメント、特にQCD管理がんばらないとダメですよね。そこら辺は西粟倉まだまだゼンゼンです。がんばる。

理想なのは山の在庫が製材所や消費者に見えていて、そこに対して注文があり、その後で施業するという流れ。ぜんぶ注文木化みたいな感じです。日本は昔から常に木材需要が高かったので、伐ってから売るという考えが基本ですが、流通を考えるとホントは売ってから伐るというのがいいと思うんです。ホントはね。

北信州森林組合さんはだいぶ進められてるみたいなので見習いたい。コマツさんのハーベスタに流通関係のシステムを導入していて、どのような材が必要か、そして伐倒した材がどのようなものか、というのが全てクラウドと連動してリアルタイムに一元管理できてるみたい。前も見たけど幾らくらいなのかなー。

西粟倉もがんばりたい。システム組み上げるコストを誰が持つか問題はありますが、北信さんのシステム使えればそれでいいですし、株式会社百森でその辺も検討進めていきます。フィンランドみたいに基礎データを国が提供してくれると全体の費用的にもラクなんですが。林野庁の方、よろしくお願いします。

ちなみにフィンランドのひとから航空レーザー測量、高すぎるよ!って言われました。アジア航測さんでコスト下げるのが無理だったら自前でドローンやヘリを飛ばして解析することを考えるべきという話だった。それはそれで燃える。アジ航さんとは今後も仲良くさせて頂きたいですが!