旧日本軍がダメ組織だった理由

戦略における目的が曖昧。将来を見据える視野に欠ける。判断が場の空気に支配されてしまう。選択肢が昔と変わらず狭いまま。技術開発がアンバランス。人間関係の維持が成果よりも重視される。各チームの最終目的が統一されない。学ぶ仕組みが組織にない。プロジェクトの成否よりも動機や過程が重視される。

そんな言葉を聞いて、ひとつでも自分のことかもと思ったひとは「失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫) 」を読むと70年前から変わんないなーと思えるので少し気が楽になるかもしれません。もしくは70年前から変わんないなーと考えてしまい少し気が重くなるかもしれません。これは、第二次世界大戦において旧日本軍が組織として失敗し続けた原因などを分析している本です。

学生の時は興味本位で読みましたけど、今あらためて読み直すと色々違って感じます。そんな訳で、ダメだったポイントについての書籍による指摘を見ながら、僕の周りにある林業において同様に見られる話をかるーくメモしておきたいと思います。まあ20年前の本、それも70年前の戦争についてなので全てに愚直にフンフンそうかと思う必要はないでしょうが、参考にはなりそうです。

旧日本軍が戦略的にダメだったところ
1.戦略における目的が曖昧

ノモンハン事件では大本営が意図を持たず成り行き主義だった。ミッドウェー海戦では重要なのが島の攻略なんだか艦隊の撃滅なんだかハッキリしなかった。レイテでは輸送船団を叩けという司令部の意図が理解されず、現場は艦隊決戦で互いの戦艦を潰し合おう!という気持ちで一杯だった。

林業でも、何のための間伐なのか?が曖昧なことが多いなーと思います。補助金の指定にかまけること無く、何を達成するべきなのかを面倒ですがいちいち確認していきたいところ。

2.将来を見据える視野に欠ける

山本五十六連合艦隊司令官や東条英機首相兼陸相は開戦後の長期的な見通しが立てられず、結果として短期的な戦略のみが軍を支配した。なお、この短期決戦志向は一過性の作戦や急襲による決戦の重視、防御や防諜の軽視、補給や兵站の無視へ繋がった。

我が身を振り返ると、将来に向けた林業の設計が困難である故に、目の前の木をいかに伐るか?に拘泥する向きが無きにしもあらずです。ゾーニングや計画大事。

3.判断が場の空気に支配されてしまう

インパール作戦の策定では牟田口中将の「必勝の信念」に幕僚は言葉を失った。作戦中止が求められる場面でも空気を読んだため議論は行われず、ノモンハンガダルカナルの失敗に繋がった。沖縄戦では合理性の高い意見は「会議の空気を重苦しいものにした」とされ、それにより議論が停止した。

林業事業体さんとの議論は諦めが支配的な空気を持つことがたまにあります。悲愴感に酔わずに、言葉と数字を気楽に扱いたい。論理とデータを常々意識しないとダメですね。

4.選択肢が昔と変わらず狭いまま

秋山真之少佐の起草した「海戦要務令」以降、大艦巨砲、艦隊決戦主義が覆されることなく日本海軍の教条となった。陸軍もノモンハンの夜襲、ガダルカナルの迂回作戦を反覆し新たなパターンへ進化することはほとんどなかった。どちらにおいても、既存の綱領類が聖典化し、思考が硬直した。

役物が高く売れた時代の成功体験に縛られてしまうことは林業においては常々言われることですが、もっとヒノキを食うくらいに思考を広げたい。バカモノと罵られることが減ってはいけないのかも。

5.技術開発がアンバランス

零戦は軽量化のため材料入手と加工が困難であり大量生産が不可能だった。大和は遠距離砲爆が可能な巨大戦艦だったが、それを有効にするはずのレーダーの性能が悪く射撃指揮体系が立ち遅れていた。一点もののハードが重視される一方で情報システムが軽視され、補給は「現地調達」にすがるものばかりであった。

林業機械展でもいろんな方から忠告頂いたんですが、高性能な機械を入れることに目が眩むばかりでその活用まで意識が回らないことがしばしばです。新しい技術はその運用と効能を意識してこそ、ですね。

旧日本軍が組織的にダメだったところ
6.人間関係の維持が成果よりも重視される

参謀本部関東軍の体面を考慮し明確な中止命令を出さず、ノモンハンの航空攻撃が断行された。インパールでは河辺方面軍司令官も第一五軍の牟田口司令官も中止すべきと考えたに関わらず、お互いの地位を尊重し懸念を口に出さなかった。陸軍海軍の関係性に考慮した結果ガダルカナル徹底の判断が遅れることとなった。

林業に限らず、というか日本にも限らずよく聞く話です。何となくなんですが、お互いを尊敬しているという前提が共有できてないと、こういう判断部分での遠慮が出るのかなという気がします。

7.各チームの最終目的が統一されない

陸軍はソ連を、海軍はアメリカを仮想敵国とみなし、統合的な判断が行われることはなかった。天皇は調整権を行使せず、ガダルカナル島やレイテ島では、それぞれの思惑が異なり統合されず部分最適が行われた結果多大な犠牲があった。組織構造による統合ではなく、東条英機など個人による統合の試みは原理原則を欠く無軌道な作戦展開を可能にした。

組織内の対立とか見ると、木こりと製材所の関係を想起せざるを得ない病気になってしまいました。無念。打倒プラスチック!とかで連携できたら面白いですね。もちろん、プラスチックじゃなくても良いです。

8.学ぶ仕組みが組織にない

ノモンハンソ連軍の戦車や重砲に敗北したが、戦車や重砲は軽視され続けた。マレー沖海戦で自軍の航空攻撃が成果を上げたが、航空機は軽視され続けた。ミッドウェー海戦敗北についての研究会は、自信喪失するとして否定された。士官育成の教育は所与の課題への所与の手段による最適解を求めることに終始し、課題自体の再設定など変化への対応がなかった。

林業事業体さんと現場でちょろちょろこうした方が良いみたいなことは話すんですが、組織的に担保していきたいですね。業界的な勉強会はそこかしこで行われているようなので、西粟倉でもやります。

9.成否よりも動機や過程が重視される

辻政信ノモンハンガダルカナルの失敗について責任を強く問われることがなかった。レイテの反転における栗田長官の責任追求は曖昧であった。業績の評価方法が曖昧であり、「仇討ち」のために責任者として次の作戦担当を許すなど情緒的な人事が横行した。

林業が難しいのは成否が出るのが数十年後というところですが、QCDなど評価可能なところは分かりやすく・納得しやすくしていきたいところですね。

旧日本軍のダメポイントとして挙げられていたのは、以上9つになります。自分の周囲を振り返る視点としては結構面白いんじゃないかと思いますが、どうでしょうか?シゴトにおいて、考えてばかりというのは無意味どころか害悪だと思います。でもだからこそ、考えを圧縮して提示してくれる書籍というのは侮っちゃダメなんじゃないかとも思っています。

ちなみに「失敗の本質」ではこれらの課題に対して、目的に応じて組織内の不均衡を許すこと、業績評価を前提に自律性を確保すること、創造的破壊による突出を受け入れる余裕を持つこと、それらを可能とする異端や偶然と共存すること、知識の蓄積はもちろん淘汰も行うこと、そして全体の向くべき目的を統合するための価値を共有すること、などが挙げられています。

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)